・訓練生活はストレスフル
語学訓練は長野県にある駒ヶ根、福島県にある二本松で行われる。筆者は二本松訓練所で訓練を受けたため二本松での生活での体験談となるが、地域が違うだけで訓練所の生活は大きく変わらないようなので参考にして頂ければ幸いだ。この訓練所での生活や訓練内容は検索すればかなりのブログがヒットするはずだ。JICAのホームページで生活の様子が紹介されているが、それらはうわべ面ばかりの内容なのでここでは筆者の正直な感想を述べる。尚、入所直後に各語学別でクラス分けテストを受ける事になる。振り分け次第では例えばフランス語を入所前に頑張って勉強した結果、クラスの半数がネイティブ級のフランス語を話しており自分が最初はついていけない、といった場合もある。人によってはあえて手を抜き下位クラスに振り分けされたいと思うかもしれないが、それは絶対にやめた方が良い。辛い思いをしてでも上位クラスに入る方が間違いなく語学が上達し、派遣後の生活が楽になるためだ。訓練の流れは以下の通り。なお、語学訓練中は祝日でも訓練が行われるため休日は土日のみとなる。
7:00-8:00 朝食
8:20-8:30 朝礼
8:50-11:30 語学授業
11:30-13:00 昼食 訪問販売(火木)
13:00-15:00 語学授業
15:00-17:00 セミナーorワクチン接種or自習
以降は夕食→入浴→自由時間→22時に消灯
朝食 7:00-8:00
朝7-8時までに食べることが出来るが、参加必須の朝礼が控えているためほとんどの人が7:45頃までに食べ終える。訓練所の食事はおいしいものが多かったが、早朝に勤務する調理員が少ないためか朝食は質素なものが多く、朝食が苦痛な日もあった。中には朝食を食べない習慣の人もいるだろうが、スキップすることは訓練所スタッフより「生活のリズムを整えるために平日は必ず食べて欲しい」と言われ不可だった。食堂入室時に名簿に食べたかどうか確認するためにサインをするのだが、「食堂に来ず食べなかった」「食べたがサインを忘れた」という事をするとすぐに連絡網で「税金で用意した食事だから無駄にしないでください」という通知を受け取る事になる。後述するテストがある日などは食事の時間すら惜しい時もあり、かきこむように食べた日もあった。
朝礼 8:25-8:40
隊員が派遣される国の紹介→国旗掲揚→それぞれの国歌を聞く→全体連絡があり解散となる。派遣国が紹介される日はローテ制になっており、担当日は30分ほど早起きする必要があるが二ケ月強の訓練中で2度ほどなので大きな負担とはならないだろう。
語学授業(午前)8:50-11:50
一般的な英会話教室のように、テキストを使用しながら進める授業がメインだ。要請内容によっては週に1-2回プレゼンテーションを行いフィードバックをもらうといった授業も行われる。この場合、事前準備が必須になるため課題量は多くなる。授業の方法は講師に一任されており、講師によっては宿題を全く出さない者もいる。訓練終了前には最終試験が行われる。「合格しないと派遣不可」、と訓練所スタッフより何度も強調され、人によっては「このままだと最終試験に落ちるので努力してください」と指導された訓練生もいるが、私の隊次は最終試験に落ちた方はいなかった。他の隊次のブログを見ていると訓練生が訓練を修了出来ない場合協力隊に参加するモチベーションを失ってしまったり、問題行動を起こすなど語学力を起因とするものではない場合が多いようだ。
昼食12:00-13:20
昼休憩は約90分と時間に余裕があり、また食事内容もよい事から私にとって訓練中の数少ない楽しみの一つだった。週に一度世界の名物料理が出されるが、それらでなくても十分に美味しかった。私は食事を早々に済ませて45分ほど自室で昼寝をすることがルーティンになっていた。この時間帯に週二回(火曜と木曜)は訪問販売で文房具やスナック菓子などが販売される。二本松訓練所の訪問販売は価格がそこまで高くなく、欲しい物を伝えると次の訪問日に持ってきて販売してくれた。菓子パンやお菓子などがよく売れていた。アマゾンなどの通販だと物によって一週間ほど掛かる場合もあるため、すぐに物が買える訪問販売には世話になったものだ。
語学授業(午後)13:30-15:00
午前に受けた授業の続きを午後に受ける。かつては午前と午後のクラス分けが異なった時代があったようだが、現在はコロナ対策や人員の理由で午前も午後も同じクラスで授業が行われている。
セミナーorワクチン接種or自習
15:00-17:00はこの三つのどれかとなる。ワクチン接種は週一回、訓練終了まで続いたのででメインはセミナーだ。セミナーの内容は以下のようになる。
「安全対策講座 例:帰宅途中に強盗にあった場合どうするか」
「健康対策講座 例:発展途上国に多い疾患とその予防策」
「派遣終了後のキャリアプランについて」
などが一例だ。発展途上国は治安が悪く医療体制も整っていないためこれらの知識を深める講座が行われる。キャリアプランについても講座があったが、そもそも隊員は性別、年齢、職種がかなり異なる。汎用的な内容に終始し、JICAが推している起業がらみの講座が多くためにならなかった印象が強い。ワクチン接種は訓練開始前までに接種できなかったワクチンを随時接種する流れになる。髄膜炎、狂犬病、肝炎などのワクチンを毎週接種することになるが筆者の隊次は大きく体調を崩す人はいなかった。接種を行う医師に高圧的な態度の者が多く、毎週嫌な思いをした記憶がある。
17時以降
入浴は17-22時、夕食は17:30-19:00までに済ませる必要がある。消灯の22時までは自由時間なので自習をしたり、ジムで運動をしたり自室横の団らん室で雑談をして過ごすことになる。消灯後はぐっと静かになるので自習するには最適の時間帯だ。
なお訓練所には喫煙所があり、就寝時間を除いて利用可能だ。訓練生の中に喫煙者はあまりおらず、公費で運営されている訓練所に喫煙所がある事に若干の違和感があったが後に当時の所長が愛煙家だったため設置されていたと聞き納得したものだ。
休日について
先述の通り、訓練中は土曜日曜が休日となり祝日は休みではない。土曜日に講座が開かれる場合があるが、土曜講座は任意参加で参加率は半分ほどだった。土日に買い物や気分転換のために外出することが出来るが、駒ヶ根も二本松もグーグルマップを見れば分かるように大都会ではない。ここでは二本松訓練所の場合について記述する。
外出は8-22時まで可能、土日の外出に限り事前申告で訓練所内の食事をスキップすることが可能。訓練所から市内(二本松駅)に出るバスは始発が8:30頃だった。そこから約30分かけ二本松駅に到着し電車で郡山or福島まで行くことが出来るが、土日の二本松駅から訓練所に戻るバスは15時代が最終だ。つまりバス・電車に乗車する時間を除くと福島・郡山に滞在できる時間はおよそ4時間しかない。郡山駅周辺は栄えているためイオンやヨドバシカメラなどで買い物が可能だが、郡山(福島駅も同様)まで出るために往復交通費は約2000円掛かる。2000円かけて4時間しか市内に滞在できないため、コスパは悪く買い物はアマゾンなどの通販で訓練所まで配達してもらうパターンがメインになる。バスで街まで出なくても二本松訓練所から歩いて約30分歩くとファミリーマート、岳温泉街があるため温泉を楽しんだりコンビニスイーツを楽しむ訓練生もおり、市内まで出かけるよりこちらが多数派だ。このコンビニと温泉街へは行きが下りになり、帰りは相当な坂を登らないといけない。自転車だと立ちこぎでやっと、というぐらいの坂であり冬季は路面が凍結するため温泉街までの道を歩くことが許されていない。訓練時期によっては利用が困難になる可能性があることに留意頂きたい。駒ヶ根の隊員の話を聞いたり、グーグルマップを見る限り駒ヶ根の方がコンビニや町が近く、利便性に優るようだ。私は多くの訓練生とワイワイする事が苦手だったため2週に一度ほど郡山に行き焼肉や寿司を食べたり買い物をしてストレス軽減を図っていた。
最終試験について
訓練の終わり際に語学授業で学んでいる語学の試験を筆記と面接で受けることになる。私は英語で面接を受けたが難度的にはそれほど高くなかった。筆記試験も入所直後に受けたクラス分けテストと難易度はほぼ変わらずだった。私の時は前隊次の時と試験内容が重複していたので、コンタクトが取れる方は前隊次に訓練所にいた方に聞いてみると良いだろう。大幅に試験内容を替えられる可能性があるため参考程度に留めることを勧める。最終試験の内容だが、私の知り得る範囲だと
「日本の紙幣・硬貨について訓練言語で説明せよ」
「日本の宗教、また宗教観について訓練言語で説明せよ」
「地図を見てAからBまでの行き方を訓練言語で説明せよ」
「試験担当官が訓練言語でいくつか質問するのでそれに対して訓練言語で回答せよ」
といったものである。二つは英語で、下二つは某アフリカ語である。英語やスペイン語など訓練所に入る前に勉強するチャンスが多い言語はマイナー言語よりは高いレベルを求められる傾向にあるようだ。 個人的な感想としては、訓練所の生活は「食事が選べない」「週末以外は外食不可」「プライバシーがない」という理由からずっとイライラしていた。特に三つめの問題はどうしようもない問題だ。自室と談話室はドア一枚しかなく防音性はない。集中して勉強したくてもワイワイ騒いでいる声が聞こえてしまい、彼らを注意することもできずやきもきして過ごしたのは苦い思い出だ。一番嫌な思いをしたのが図書館で勉強している時で、一時間ほど勉強しているとある同期が「いつも私はそこで勉強しているんだけど」と暗に退くように言われた。そこから私は訓練生活が一気に嫌になり、生活班(同じエリアで生活する10人ほどの班)以外の人間とはほとんどコミュニケーションを取らなくなった。私が訓練を受けた時は60名ほどが訓練所にいたが、現在は150名を超える訓練生が一度に訓練を受けている。ストレス対処に関しては何かしらよりどころがあると快適な訓練生活を送れると思う。最終試験は落ちる人はほぼいないため、訓練中は睡眠時間を多めにとって手を抜けるところはとことん手を抜くことも必要と考える。