協力隊事業の問題点とは

応募前に留意すべき事

毎年春と秋に協力隊募集があるが、選考結果が発表される時期になるとノートなどで「選考に受かった」「選考に落ちた」といった記事をちらほら見かける。落ちた人が「何故自分が落ちてしまったのか」と落胆していたり、合格して喜び爆発している人もいて人それぞれだ。ここでは近年の選考結果を見た筆者の考えを述べたい。

案件はそもそも全て派遣される事を前提に出されていない

2024年春の長期隊員の選考結果を見ると案件数が約1700に対して合格者数は300人程度と倍率は5倍ほどになっている。この案件数も合格者数もおよそ例年と同じ程度である。現在は1次、2次、3次隊と訓練開始時期が三つに分かれており、駒ヶ根も二本松も一度に語学訓練を受ける事が出来る人数は200名強と聞いた事がある。一度の訓練時期に200名ほどの候補生がいた後輩隊員から話を聞いてもそもそも宿泊棟のキャパシティがそれぐらいなようだ。仮に満員で一度の訓練で250人を受け入れたとして、駒ヶ根と二本松の1-3次隊の最大受け入れ可能な候補生の数は一年で1500人ほどの計算になる。2024年秋の募集では1700ほどの案件を出しており、春と合わせると3000ほどの案件がある。この数は訓練所が受け入れ可能なキャパシティを超えており、この時点でJICAが全ての案件に対して隊員を派遣させる気がない事が分かる。


選考においては個々の能力よりも「本当に行く気があるか」が重視される

Noteをある日見ているとかなりハイスペックな人材がある案件の二次選考に進んだが、落ちて未練がましく色々と書いている記事を見た。記事内容だけで全てを判断出来ないのだが、この方は面接で任国の事をあまり調べず、自身の能力の高さも資格試験などの結果によって示す事が出来ず、圧迫面接のような内容に圧倒され落ちてしまったようだ。私の任国生活の中で先輩同期後輩、色々な人に会ったが中には実務経験の全くない新卒に近い隊員が専門分野とは程遠い案件で働いている場合もあった。彼ら、彼女らを悪く言っているのではなくこういった隊員に共通するのが「何が何でも協力隊に参加したかった」「国は正直どこでもよかったし、案件もこだわっていなかった」という事だ。コミュニティ開発や青少年活動などは応募に必要な資格や経験が求められない物が多く、特にこの2つは案件の多さだけでなく毎年倍率が高くなっている。かく言う私も「国や案件はどこでも良い、自分の能力を生かせるならどんな場所でも働きたい」と志望書に書いて合格した。つまりJICAにとって案件に適したハイスペックな人材を合格させるより「こいつは選考に合格しても辞退せずに二年間完走出来そうだ」という理由を重視していると考える。中には適材適所の例もあるのだが、案件に完璧にマッチする人材が応募してくるとは限らないし、その人物が特定の国でしか働きたくないと希望しているケースもあるだろう。これまでの経験から言うと「ハイスペックだがこの国、案件でしか働く気はない」という人は「新卒で実務経験は無いがどんな国、案件でも働きたい」という人に比べ選考に落ちてしまう可能性がかなり高い。JICAにとっては適材適所の派遣より、単に隊員が任国で二年間完走し、派遣実績を積み上げる事の方が大事なのだ。


派遣人数の少なさは途上国の技術移転にも繋がらず隊員にとっても不利益

上記の通り、案件募集に対して実際に隊員が派遣される割合は2割にも満たない。任期短縮や訓練中の辞退なども含めると実際に任国で2年間働くケースはもっと少なくなるだろう。隊員が実際に派遣先で働いて半年ほどで「後任隊員は必要と思いますか」と事務所より確認される。この時点できっぱりと「必要ない」と言えるほど派遣先の問題を捉えていたり、問題に対してアクションを起こしている事は少ない。多くの隊員は「はっきりと言えないが、後任はいても良いのでは」といった回答になる。私の任期中はVC(企画調整員:簡単に言うとJICA事務所側の上司)がそもそも「後任は居た方が良いですよね」と無理に押し付けるように後任要請をプッシュしてきた。隊員の案件の中には新規、継続の2種類があるが、1派遣先に対して隊員が働くのは最大で5人、累計10年までである。もし5人の隊員が途切れなく10年間派遣先で活動出来るならその職場は間違いなく良い方向に向かうだろう。しかし合格率が低い事から新規隊員が派遣先を去り、次の隊員が来るまで3年掛かったという案件は珍しくない。そもそも後任隊員が3年後に来ること自体が派遣先にとっては相当な幸運なのだ。途上国の人間は基本的にトップダウンでしか動かず、1年でも空白期間があると前任隊員が行っていた活動が全くのゼロになってしまうケースがほぼ100%と言ってよい。継続した隊員派遣が出来ない事はゲームを始めて30分でリセットし、また30分やってリセットする事と同義である。


継続的でない隊員派遣は派遣先にとっても無意味だし隊員にとっても「前任がここまでやっていると聞いたのに跡形が全くない」「自分がする活動も自分が去るともうされなくて意味が無いのか」と無力感に苛まれることになる。私の任国での経験から言うと継続隊員の方が新規隊員より多いという事はなく、まさにバラバラの隊員派遣になってしまっている。 こういった内容を任期中に担当VCに訴えた事もあり、彼らも一定の理解を示しているようだがこのような方針はそもそもVCや各国事務所ではどうする事も出来ない問題である。当記事では協力隊事業に対する単なる批判となってしまったが、紛れもない事実である事を理解頂きたい。

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